帚木・空蟬~立場と恋愛

※この記事は2020年4月16日にnoteで公開したものです。

 

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前回の雨夜の品定めでやたらハッスルして疲れてしまい、続きの感想を書かずに一気に夕顔まで読んでしまった。源氏物語面白いな。しかし文章を書くのはなかなか大変で、こんな更新状況である。

さて、空蟬と光君のエピソードである。空蟬は受領・伊予介の妻だ。元々は父に宮仕えを望まれていたが、その父が早くに亡くなってしまったため、伊予介の妻になり、幼い弟・小君とともに暮らしている。彼女は生活基盤を夫の伊予介に依存しながら、幼い弟の将来を背負っているのだ。平安時代においては有力な親や親戚などの”後ろ盾”が重要だったことを鑑みると、空蟬はかなり不安定な立場に置かれている。伊予介の息子・紀伊守の「ことに女の運命は浮き草のように不安定なのが気の毒に思えます」(p63)という台詞の通り、平安女性のライフコースは綱渡りに近かったのだろう。まあ今もそういうとこあるけど……。

そんな空蟬に光君は夜這いをかける。彼女は拒否するものの、押し切られてしまう(どうも女は拒否できなさそう)。しかも一度セックスした後の連絡係に弟の小君を使ったりする。空蟬は光君の好意を嬉しく思いつつも、不倫が露見したときの生活や評判を考えて肝を冷やす。現代だと煮え切らないとか下衆だとか言われるかもしれないが、当時の女性には独立して働いて生活するという選択肢はほとんどなかったのだから、空蟬の心情は当たり前のものだろう。彼女は光君に逢わないと決め、冷たい返事をし、小君の手引きで通ってきた光君から逃れる。しかし光君は空蝉のつれなさにかえって執着するのだった。『かぐや姫の物語』の帝じゃん!!

さらに光君は小君をそばに寝かせてこう言う。

「こんなに人から冷たくされたことはないよ。今夜はじめて、こんなにつらいことがあると思い知らされて、恥ずかしくて、生きていかれそうもない」(p79)

打たれ弱すぎである。

大学の授業で、「光源氏は女性に恥をかかせなかったからモテた」と聞いたことがあるのだが、どちらかというと自分の面子を気にしまくっている気がする。空蟬は恥をかくどころか立場が危ういし、何なら命の危機でもあると思うんだけど。

また、小君に対する発言も気になる。

「きみはかわいいけれど、あの冷たい女の弟なんだから、いつまで仲よくできるかわからないよ」などと真顔で光君が言うので、小君はつらくてたまらなくなる。(p87)

かわいがりつつも気まぐれに脅すようなことを子供に言うの、非常に良くない。ただでさえ姉との板挟みでおろおろしているのである。というか、大人の恋愛に子供を巻き込むなよ……。また、小君にとって光君は優しいお兄さんである上に、宮仕えの後ろ盾になってくれるかもしれない存在であることが、さらに状況を難しくしている。しかし光君は空蝉のつれない態度を嘆いたり、男として面目が立たないとむくれたりするばかりだ。立場のことをあまり考えないでいられるのは、彼の立場が盤石だからである。

光君はもう一度夜這いをかけるが、同じ部屋にいた別の女性・軒端萩とセックスすることになってしまう。巻き込まれた軒端萩も不憫である……。