落ち着かない

大学生の頃、友人と『仮面ライダー電王』の鑑賞会をしたことがある。一度で全部は観きれないから、何度も一人暮らしの友人の家に通い、一緒にコンビニのご飯を食べて、DVDを見て佐藤健の演じ分けに感動し、寝て起きて大学に行った。高校卒業まで友人の家に泊まったことがなかったので、すごくわくわくしたのを覚えている。

当時の私は今よりもオタクカルチャーに親しんでいて、漫画もアニメも声優もアイドルも全部好きだった。今考えると節操がなさすぎてコンテンツを深く楽しめていなかったように思えるが、当時はとにかくなんでも吸収しようと必死だった。自分は無知だと思い込んでいて、とにかくなんでも知るべきだという強迫観念にかられていたのだ。

その姿勢が友人には「勧めればなんでも興味を持つタイプ」に映っていたようだ。私の歴史好きを知ると、彼女は『戦国鍋TV』の存在を教えてくれた。戦国武将たちがユニットを組んで歌い踊るテレビ番組だという。「地上波でキャラソンライブ!?」とやはり節操なく興味を持ったのだが、当時の実家のテレビはデジタル放送未対応のブラウン管、録画機器は当時すでに過去の遺物と化していたVHSレコーダーだったため、結局一度も見ずに終わってしまった。

それがまさか、10年後にBlu-rayBOXを注文することになろうとは……。

 

戦国鍋TV』のBlu-rayBOXの到着が待ちきれず、ついMの情報を調べまくってしまった。配信サイトで見られる映像作品はブックマークし、出演舞台のトレーラー映像もいくつか観た。Mは舞台ごとにまったく別人になる。どの役がMなのかよく見ないとわからないことも多い。そしてMはびっくりするほど歌がうまい。口をあまり開けなくても声が通るし、歌い方で些細な感情変化を表現できる。Mは10年間で着実に実力をつけてきたことがよくわかった。非の打ち所がないのが悔しくて、Mの発言の端々に粗を探してしまった。私をハマらせないでくれ。

ここ数年のMは、アナウンサーのような澄まし顔をしていることが多い。キービジュアルや告知トレーラーだけしか見ていないので、舞台上ではもっと多彩な表情を見せている可能性はもちろんある。しかし告知媒体が澄まし顔ということは、ごく一般的な男性の役を振られることが多いのだろうか。確かに端整で特徴のない顔だから、そういう役が似合うのはよくわかる。普通さも上手く演じられるだけのスキルもあるだろう。でも、もっとやんちゃな表情も見てみたい。何かないのだろうかとMのTwitterアカウントを遡っていると、出演した映画の舞台挨拶のオフショットでチャラい表情をしているMを発見した。そうそう、こういうのが見たいんだよ、こういうの!

いやいや、別作品をディグっている場合ではない。まずは『戦国鍋TV』に集中すべきだ。別作品のMを求め始めたらそれはただの推しではないか。際限がなくなってしまう。

そういえば、今朝は夢に『戦国鍋TV』出演者のSが出てきた。Mと「信長と蘭丸」でコンビを組んでいた俳優だ。夢の中でSは舞台の合間になぜかうちにお風呂を借りに来ていた。うちのお風呂は間取りが変わっていて、やたら大きい浴槽が二つ並んでいた。とりあえずタオルを貸してお風呂に案内した辺りで記憶が途切れている。変な夢だった。そういえばMはYouTube石川啄木『火星の芝居』の朗読劇で火星の舞台の夢を見た役をやっていましたね……ってまた別のもの観てる!

明日から緊急事態宣言が出るらしいが、舞台演劇はどうなるのだろう。前回の緊急事態宣言のときに舞台演劇が危機に晒されたことはまだ記憶に新しい。MもSも彼らのスタッフたちも再び苦境に立たされるのではなかろうか。私が買った『戦国鍋TV』Blu-rayBOXの代金の一部は彼らの収入の足しにはなるのかもしれないが、やはり微々たるものだろう。やっぱり政府がもっと補償をしてほしい。どうにかならないものか……。

もしコロナ禍じゃなかったら、Mの舞台を観に行っていたかもしれない。実物を観たら満足して落ち着くことができただろうか。それとももっとハマっていたのかな。わからない。とにかく引きこもって、一人でじっくり『戦国鍋TV』を観よう。