逃げられない

朝起きてスマホを見ると、Amazonから配達完了の通知が入っていた。うちの玄関にはすでに『戦国鍋TV』のBlu-rayとCDがあるのか。やばいな。ドキドキしてきた。昨日は到着が待ちきれなくてどうしようもなくなっていたのに、いざ手元に来ると封を開けるのが怖い。

落ち着くためにTwitterを見る。どうやらアメリカの議事堂にトランプ支持者が突入したらしい。まったく落ち着けない。戦国時代よりも秩序がない。共通感覚の喪失を改めて見せつけられた気がした。

なんだかつらくなって、ほとんど手癖でTwitterの検索窓にMのフルネームを打ってみたのがいけなかった。Mが出演した旅番組が今日の昼に再放送されるらしいのだ。このタイミングで嘘でしょ! 番組表を確認したら本当にやっている。洗濯物を干しながらしばし考える。『戦国鍋TV』もちゃんと観ていない状態で、素に近い姿のMを見てしまっていいのだろうか。旅番組の出演者が全く演技していないとは思わないが、それでも公共の場における善き市民的な振る舞いにカメラへの意識を足したくらいのものだろう。それって演劇より我々の日常に近い。そんな番組でもしMがいい感じの振る舞いをしていたらどうするんだ。絶対コロッと好きになってしまう。まずい。大きな感情の波は30を過ぎた心身に堪える。うわーどうしよう。混乱しているうちに放送時間になる。結局リアルタイムで観てしまった。

Mはもう一人の俳優STとともに、ロザンゼルスのジークンドー道場で体験講習を受けていた。MはRENTのTシャツを着ていたから、この番組は3年ほど前のものだろう(トレーラーを見過ぎてこんな推定もできるようになってしまった)。最初のランニングと筋トレから、Mはハイレベルな基礎体力と運動神経を披露していた。まずとても姿勢が良い。体幹がしっかりしていて、軸があまりぶれない。そして予想以上に筋力がある。腕立て伏せを5回やってから人力車で進むというトレーニングも、Mは難なくやり遂げてしまった。STはMより少し運動が苦手なのか遅れをとりがちだったが、MはSTをバカにすることもなく、さりげなくサポートしていた。たまにお互いを褒めたりして、楽しげにキャッキャしている。好青年じゃん。運動神経の良い男子から鈍臭さを散々けなされた小学生の頃の私が浮かばれるようだ。サボり気味だったリングフィットアドベンチャー、再開しよう……。

番組でのMはとても表情が豊かで、いつもの澄まし顔からは想像がつかないほどだった。しかもどんな表情になっても顔のバランスが崩れない。どの角度から見てもきれいに整ったままだ。端整ここに極まれり。前回までMの顔を「端整で特徴のない顔」と書いたが、彼の場合むしろ端整さが最大の特徴なのだ。だからどんな役でも雑味を出さずになりきれるのだろう。きれいな出汁はきれいな水から取れるように。

ジークンドーは攻撃を痛くない程度に弱めて相手に当てるのが肝らしく、いつも当てないように演技をしているMたちにはそこがなかなか難しかったようだ。一度MがSTの股間を誤って蹴ってしまった。力を弱めながらのアクションには相当な鍛錬が必要なのだろう。ブルース・リーって本当にすごかったんだな。しかしSTに抱きつきながら謝るM、めっちゃかわいかった。なんだあの弟キャラは……。

Mたちの会話から推測するに、どうやら前回はニューヨークのダンス教室に行ったらしい。踊るM、見たかったなあ。ああDVD出てるのか。というかこの再放送は平日に毎日やってるのか。帯で録画予約してしまった。どんどん沼に入っていっている気がする。まだ岸に戻れるだろうか。


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今日は『戦国鍋TV』のCDだけ聴くことにした。ジャケットがあまりにレトロで笑ってしまった。このデザインは発売当時でも古い。

収録曲も非常に懐かしいサウンドだった。私はKinKi Kidsの楽曲を聴いて10代を過ごしたのだが、『戦国鍋TV』のサウンドKinKi Kidsの初期の曲に似ている気がする。80~90年代のジャニーズのパロディが多いからだろうか。いや、私は音楽の知識があまりないから、実際のところはよくわからないのだけど……。

MはCDに収録された13ユニットのうち6つに参加している。つまり6役を演じているのだが、歌声がそれぞれ全く違う。「SHICHIHON槍」では一昔前の正統派アイドルらしい声で歌い、「天正遣欧少年使節」ではかっこつけた声でのラップを披露、「堺衆」では穏やかな声で茶人っぽさ(?)を演出し、「信長と蘭丸」では胸に反響させたようなセクシーな歌声で蘭丸を誘惑し、「AKR47」では元気で明るい男の子の声で年号を叫ぶ(「天草四郎と島原DE乱れ隊」てではソロパートなし)。歌詞カードの出演者の欄を見ないと同じ俳優が歌っていることに気付けない。まるで『仮面ライダー電王』の佐藤健のようだ。役に入ると声も自然に変わるものなのだろうか。すごすぎる。たまらん。私はこういう七変化するタイプの俳優に弱いのだ。こちとら美容雑誌で同じモデルが何通りものメイクをしているページを延々と見比べていられる人間である。やめてくれー。助かりたい。