【感想メモ】映画『スキャンダル』

※この記事は2020年7月3日にnoteで公開したものです。

 

緊急事態宣言が解除されてから初めて映画館に行った。記念すべき営業再開後の一本目は『スキャンダル』にした。シャーリーズ・セロンが出演する映画は問答無用で観に行くことにしているのに、これは観そびれていたのだ。ちなみに『ロング・ショット』も観そびれている。だめだめである。

『スキャンダル』は2016年にFOXニュース内で起こったセクハラ事件を描いた作品で、実在かつ存命のキャスターを俳優たちが本人に限りなく似せた特殊メイクを施した状態で演じている。それだけでなく、彼女たちはさらにしゃべり方や発声まで似せているらしい。私はシャーリーズ・セロンの声も好きなのだが、今回は全く別の声でしゃべっていたので驚いた。パンフレットに載っているインタビューで、ジェイ・ローチ監督が「シャーリーズは、『鏡で自分を見た時に、自分が消えてなくなるまで追求したい。私ではなくメーガン・ケリーとして声を発したい』と言ったんだよね。」と語っており、彼女の熱い仕事ぶりがうかがえる。

内容は、途中まで登場人物の名前と顔が一致せず、ストーリーについていくのに精いっぱいになってしまった。また最初のFOXの本社ビルの構造の説明についていくのもなかなか大変であった。自分の能力が映像メディアに追いつかない。もう一度見直したらより内容を理解できる気がする。なので気づいたところをちょこちょこ書いておく。

マーゴット・ロビー扮する新人FOX社員ケイラは、上昇志向の強い女性で、出世につながる仕事をもらうべくCEOのロジャー・エイルズに直談判するチャンスを得るも、セクハラに遭ってしまう。そこからケイラのメイクはどんどん濃くなり、つけまつげがバサバサになり、髪はゴージャスに巻かれ、服も色がはっきりとして露出度が高いものに変わっていく。その姿は、同じくロジャーからセクハラを受けたメーガンやグレッチェンと雰囲気がよく似ている。セクハラの進行をファッションで表す演出には驚いたが、ロジャーやトランプがやたらと女性のセクシーさに言及していることを考えると、実際にあってもおかしくない現象に思える。しかし、あのようになんとなく雑に盛りまくった派手なファッションが「アメリカのセクシー」として人気を得られるのは奇妙に思えるのだが、日本の右派政治家のファッションもどこかちぐはぐな印象を受けることがあるので、そういうものなのかもしれない。

FOX系列のニュース編集をしているらしいベス・エイルズ(ロジャー・エイルズの妻)が、部下に「プリウスは映さないようにね」と言うシーンがある。ここで思い出したのが『ラ・ラ・ランド』だ。主人公のミアはプリウスに乗っており、パーティーのキークロークがプリウスのキーだらけで自分のものが見つけづらいというシーンがある。もう一人の主人公セブは古びたクラシックカーに乗っており、彼はお気に入りのジャズの店がサンバとタパスの店になったことに憤慨したりする。映画全体に古き良きハリウッド(クラシックカーやジャズ)と変わりゆくアメリカ(プリウスやサンバやタパスや中国語)との対比が通奏低音として響いており、ミアとセブの関係と状況の変化に心打たれつつも何か違和感を覚える作品だったが、実際のアメリカも割とそういう感じなのかもしれない。

その後ベスは別の部下がランチのパック寿司を開けているのに顔をしかめ、部下が「スシはリベラルの食べ物ではないと……」と弁解するのだが、食べ物に政治的スタンスが現れるらしいことにも驚いてしまった。しかもここ70年ほどアメリカの同盟国をやっている日本の食べ物が「リベラルの食べ物」とは……まあアメリカは伝統的に孤立主義だから仕方ないのかもしれない。日本の右派ポピュリストが親米だから不思議に思うだけで。もっとも、ベスは単純に生魚か寿司酢の臭いが苦手なだけかもしれないが。そういえば、最近Netflixで『クィア・アイ』をちょこちょこ見ているのだが、見るたびにアメリカ人の食の保守性に驚かされている。ずっと同じようなものを食べ続けているアメリカ人や、パスタやリゾットを知らないアメリカ人や、ナイフとフォークの使い方がわからないアメリカ人が出てくるのだ。料理担当のアントニは彼らのライフスタイルに合わせて世界各国の料理をアレンジして教えるのだが、もしかしたらあれは私が思っている以上にすごいことなのかもしれない。翻って日本は食に節操がなさすぎるのかもしれない。キムチもフォーもカレーもパエリアもハンバーガーも全部おいしいものに括られてるし。

さらに関連して思い出したのが、『俺たちスーパー・ポリティシャン!めざせ下院議員』という映画で、議員に立候補すると決まった男性がコーディネーターの指示で髪型をアメリカ風に、インテリア風に、飼い犬をパグからレトリバーに変えられるシーンだ。パグ=中国=共産主義で、非常にイメージが悪いのだという。公式な飼い犬の座を奪ったレトリバーをパグが窓から見るシーンがしみじみかわいそうだった。この映画は日本未公開で、深夜にテレビ放送していたのをたまたま観たのだが、これもジェイ・ローチ監督作品らしく、非常に驚いた。「アメリカ風」のイメージを描き方がコミカルかつシニカルで面白い。